「うぅ…ッ やだなぁ…」
墓地の入り口で、奥の方から漂ってくる、独特の香りと、ひんやりとした空気に、私は身を縮こませた。
グリダニアに戻った私は、ミューヌさんから、神勇隊の仕事を手伝って欲しいと依頼された。
なんでも、ベントブランチ牧場の南にある、タムタラの墓所と呼ばれる地下墓地を、終末思想の異教徒が占拠してしまったらしい。
……墓地……。
正直、そう言うのはあまり得意じゃない。
得意じゃないというか、すごく苦手。
だから、この話、お断りしようかと思ったんだけど、神勇隊のリュウイン隊長まで交えて、私なら安心して任せられる! なんて、目の前で盛り上がられちゃうと、断りづらくて…。
今回も、単独での行動は許可が降りなかったので、一緒に同行してくれる人を募って、現地へと赴いた。
同行してくれたのは、ユズリハさん、ビターさん、クレアさんの3人。
やっぱり、皆さん熟練の冒険者で、恐縮してしまう。
私も、それなりに実力付いてきたんじゃないかなーと思わなくもないんだけど、やっぱり、まだまだよね…。
墓所に入って、最初に視界に入ったのは、巨大な黒い玉だった。
深い縦穴の上に浮かぶそれは、下の方から、なにかが流れ込んで形作られているように見える。
話に聞いた、終末思想団体が、何かをしているんだろうか?
道は、縦穴沿いに続いているようなので、下の方に注意しながら、下って行った。
「あれが、異教徒かな…?」
2階層ほど降りたところで、私達は、赤いローブに身を包む人達を見つけた。
ここまで出てきた敵は、スケルトンや虫ばかりで、生きた人間は初めて見た。
なんだか、古い血の色を思わせる色のローブ姿は、場所の雰囲気も相まって、一層不気味に見える。
周囲を飛んでいるのはインプだよね…。
召喚されたんだとしたら、ちょっと侮れないかもしれない。
あと、後ろに見える祭壇のようなものが、ちょっと気になる。
祭壇からは、魔力的な光が、上に見える黒い玉へと繋がっているみたいだし、なにか嫌な感じがするのよね。
とはいえ、依頼内容は、彼らの排除だし、話を聞いてくれる感じもしないし。
気になるところは、今は目を瞑っておく事にしよう。
そこから、一番下の階層に降りるまでに、祭壇は2つあった。
祭壇を崩すと、そこから伸びていた光は途絶えるんだけど、上を見上げても、黒い玉に変化はない。
うーん……光を断つ様にするのは問題ないと思うんだけど……大丈夫かなー。
突如、大爆発起こしたりしないよね?
そして、結局、すべての祭壇を崩し、すべての光を途絶えさせても、黒い玉に変化は見られなかった。
霧散するかなーと思ったんだけど、そう上手くはいかないみたい。
……あれ?
なんか…黒い玉が、こっちに近づいてきているような……あ、落ちて来てる。
黒い玉、落ちて来てる。
みんなが見守る中、ゆっくりと、物理法則を無視した等間隔のスピードで、黒い玉は落ちてきて、そして、縦穴の中央にある舞台に触れた瞬間、弾ける様に霧散してしまった。
しかし、その霧散した霧の向こうに、人影のようなものを見かけた私は、固唾をのんで、その人影がハッキリするのを待った。
「……ぅぇ……」
そこには、大きなイカが、ガウンを纏ったような、ちょっと生理的に近づきたくない姿をした魔物が立っていた。
「古の王の骸を依代とし、ヴォイドの深淵より我を呼びしは貴様か?」
呼んでないです。
思わず、ブンブンと首を振って答えるも、あんまり人の話は聞いてなさそうよね…。
「……まぁ、よいわ。事のついでだ……貴様の脳髄を啜り、その精神の味を楽しむとしようぞ!」
ほら。やっぱり。
まぁ、どちらにせよ、悪意のある存在だし。
かなり強力な魔力を感じるから、放置して、アレが外に出てら大変なことになるのは、想像に難くないし。
私達は、イカ男を倒すべく、舞台へと駆け出したのだった。
イカ男は、大層なことを言っていただけあって、とても強敵だった。
呪術師タイプの様だから、フィジカルは弱いと思っていたんだけど、なんか、あのヌメヌメした体液が、刃も魔法も通り難くくしているみたい。
加えて、ちょいちょい、インプやらスケルトンやらを召喚してくるので、その度に、対処に走らされてしまう。
特に、インプは厄介だった。
「……? あれ、なんだか急に手応えが…?」
「イーディスちゃん、インプ! そいつが邪魔してる!」
「!! わかりました!」
慌ててインプを排除すると、再び、ダメージを与えている手応えを感じられる様になった。
どうやら、何かしらの術で、インプがイカ男を守ってたみたい。
その代わり、インプ自身は、その術に集中していて、それ以外のことは出来ないみたいだから、対処はそんなに難しくはないのが幸いだった。
ただ、2回、3回と、イカ男が召喚を重ねるたびに、召喚されるインプの数も、それ以外の魔物の数も増えていったのがキツかった…。
さらに、イカ男が自身が、かなり強力な広範囲攻撃を放ってくるのにも気を使った。
あれ、たぶん逃げ遅れると、かなり不味そうな感じするし。
でも、やがて、イカ男の体力も魔力も尽きる時が来た。
「おのれ…矮小な人の分際で…」
イカ男は、悔しそうに怨嗟の声を残しながら、闇へと帰っていった。
ふぅ…。疲れたぁ…。
それにしても、こんな魔物を召喚するなんて…なにを考えているのかなぁ…。
まぁ、終末思想なんて、私には理解できないけど。
まぁ、ともかく。
「やったー!!」
タムタラの墓所の攻略完了!